朝日新聞が、以前、内密出産について、連載している。読み応えのある内容だ。
今回は、その連載からフランスの事例をまとめ、出自について知る権利への対応について考えてみたい。
フランスは、「子どもを育てることを望まなくても、安全に合法的に出産する選択肢を用意するのが公衆衛生である」という理念をもっている。これは、とても大切な理念だ。また、産んだ子を認知するかどうかは、母親も父親も選ぶことができる。父も母も認知しない場合は、子どもは「国の子」となり、専門の里親に託された上で、養親に迎えられる。2021年は391名だった。
出自を知る権利については、国が子どもたちの出自に関する情報を管理する。「国家諮問委員会(CNAP)クナオプ」という機関があり、女性が匿名出産を選んだ際には、各県に配置されている訓練を積んだ担当者が女性と面談。決断の背景、相手の男性、遺伝性疾患などの情報を聞き取る。子どもが成長して、自分の出自を知りたいという時には、女性の実名を含め、どのような情報を残すかは、女性に委ねられている。自分の写真や手紙を残すこともできる。
匿名出産の場合、生まれた子どもの出生証明書には親の名前が書かれず、養子縁組の手続きをとる。ただし、産後2ヶ月までは撤回できる。その場合には、専門職が2年間、母子を支援することが定められている。匿名出産を選んだが、その後自分で育てることを希望する女性は2割程度。2020年の場合、518名が匿名出産をした内、105名が2ヶ月の猶予期間内に子どもを引き取りに来たという。しかし、最終的に、施設に預けられるケースもある。母親が「本当は何をしたいか」を尊重することが大切だと、専門家は指摘する。また「女性に決断を強要することは、虐待であり、暴力だ。」とも語っており、印象的だ。とても大切な指摘だと思う。
クナオプが管理する出自に関する情報は、子どもが18歳になったら、養親の付き添いなくても情報開示を求めることができる。情報には、「開かれたファイル」と「閉じられたファイル」がある。「開かれたファイル」は年齢や職業、出産時の状況など、個人の特定ができないもの。「閉じられたファイル」は、出自に関する情報、実母の特定につながる情報。「開かれ情報」は子どもが望めば、開示され閲覧できる。「閉じた情報」は、子からの問い合わせの時点で、母親の同意がなければ開示されない。このプロセスが保障されることは、とても重要だ。
1900年以降に匿名出産で生まれた人のうち、出自の問い合わせをしてくるのは、全体の1割程度なのだそう。クナオプは、国と県が拠出する運営費で運営されている。日本の場合は、1994年に子どもの権利条約を批准。特別養子縁組、精子提供などの生殖補助医療で生まれた子を含め、出自を知る権利を保障する法律は整備されていない。
私は、以前、精子提供によって生まれた方から話を伺ったことがある。養親のもと、とても恵まれた環境で育った方だが、「出自を知りたい」という思いが強く、それゆえに、現在、養親との関係もギクシャクしているようだった。
日本でも、生殖補助医療がどんどん進んでいる。その一方で、生まれた子どものアイデンティティに深く影響する出自について知る権利については、保障されていない。これは、その子にとって大問題だ。医療技術だけが進むのではなく、その結果生み出されるアイデンティティの問題に、日本は真剣に取り組む必要がある。
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