フランスの事例を続けて、みていく。
妊娠に葛藤を抱える女性が相談に訪れる「MOISE モイーズ」。1992年につくられた。ここでは、身元を明かさず相談できる。また偏見を持たないよう専門の訓練を積んだ臨床心理士らが必ず2名で対応するとのこと。新規の相談は、おおむね年間75名ほどだという。大切なことは、「女性の意思を尊重すること」「ニュートラルでいること」。
避妊について。フランスは「保健センター」とその下部組織「性的健康センター」がある。「保健センター」は、妊娠中の女性や3歳までの子どもの健康、子育て相談を担う。「性的健康センター」は、ピル、緊急避妊薬、経口中絶薬などを無料、匿名で受け取れる場所。個人情報を開示する必要はない。
日本でも緊急避妊薬が処方箋なしで販売されるようになったが、一部の薬局にとどまり、販売対象は16歳以上。16歳以上18歳未満は、保護者の同伴が必要だという。16歳未満の場合は、やはり医師の診察を受けることが必要だと思う。ただし、受診へのハードルが高くなる。
エマニュエル・ピエット医師:
「国が女性の身体を管理し、たくさん産ませようとすればするほど女性たちは子どもを産むことに関心をもたなくなる。女性が望まないタイミングでの妊娠、出産することは子どもの虐待につながる。」
「女性が社会の中に居場所があり、選択できることが重要。女性が幸せにならなければ、子どもを産みたくならない。」
この言葉は重い。
また、モイーズのスタッフの言葉、
「苦しみを感じずに匿名出産を選んだ人は一人もいない。」
この言葉も大変重い。その通りだろう。
熊本の慈恵病院は、2000年に「SOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」を開設。2023年「妊娠内密相談センター」を開設している。今では、そのほかにもいくつかの団体が妊娠に特化した相談窓口を開設している。こういった活動を行政がしっかり支援することが必要だ。
2021年〜2024年にかけて、21人が内密出産をし、そのうち9人がのちに撤回。うち6名が自分自身で育てることを希望したが、その後、実親や家族が育てていることを確認できたのは2名のみだという。
慈恵病院に来院した女性の多くが、幼いときに養育者との愛着形成がうまくいかず、対人関係などに問題を抱える愛着障害など、さまざまな困難を抱えていたという。
慈恵病院の蓮田院長の言葉、
「幸せな人生を自己肯定感の高い人間い育つことだと定義すれば、赤ちゃんたちの多くが満たされておらず、こんなことなら最初から養親に迎えられた方が良かったのではないかと思うことがある。」
この言葉も重い。
まず大切なのは、子どもと母親の命を守ること。嬰児殺しをしなくて済む環境をつくること。心と身体の双方について、安全な妊娠期と出産を可能とすること。その上で、子どもの安心できる生育環境の確保。母親の意思の尊重。これらがとても大切なことだと思う。
社会は、妊娠をとてもいいことだと捉える。もちろん、そうであってほしい。妊婦の身体が安全で、パートナーがきちんと一緒に育てる環境があり、子どもを育てる家や経済的な環境が整っている。母からも、父からも望まれて生まれてくる赤ちゃん。そうであってほしい。
しかし、現実には、そのような妊娠だけではない。残念だが。その時に、女性がきちんと自分で自分の身体と自分の生活、自分の人生について自分自身と相談しながら、女性自身が選択できる環境を整えなければならない。女性が追い詰められるのではなく、安心して、自分の選択ができる環境が必要だ。
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